研究概要 |
研究代表者はこれまでヒトを含め、広い宿主領域を持ち、神経親和性が高く、動物個体脳に直接注入して感染・発現できる非増殖性の欠損型ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus type 1, HSV)ベクター系(Mol.Cell.Neurosci.2: 320, 1991)を用いて神経科学研究および遺伝子治療研究に応用すべく、基礎データを集積しつつあり、(1995年ワークショップ「神経発達研究におけるあたらしいアプローチ」にて発表;シュプリンガー社「神経生物学のための遺伝子導入発現研究法」(1997))、また、グルタミン酸受容体、インターフェロン(IFN)-γ、インターロイキン(IL)-2、癌抑制遺伝子VHL等の各cDNAクローンのHSVベクター系の構築、細胞・個体への感染発現実験について、既に経験を積み、実績を挙げつつある(Biochem.Soc.Trans.1996; "Gene Therapy"(Cold Spring Harbor Laboratory)1996)。 1)LacZ遺伝子をレポーター遺伝子として組み込んだコントロールウイルスペクターを用いて、PC12細胞、ラット胎仔大脳皮膚初代培養細胞において、X-Gal histochemistryからその感染効率がほぼ100%であることを確認している。 2)これまで、マウスグルタミン酸受容体α1、ζ1、ε2、IFN-γ、IL-2、VHL、HPC-1アンチセンス組換型HSVウイルスを作製している。得られたウイルスについてPCR、ドットブロットで確認し、次にこれを感染させた種々の細胞においてmRNA、タンパク質が発現していることを各々、RT-PCR、ウェスタン解析で確認した。さらに電気生理学、生化薬理学的、検討等を行い、これらの分子的、機能的解析を進めている。 3)ヌードマウスを用いた腫瘍モデルにおいIFN-γ、IL-2組換型 HSVウイルスを接種したところ、腫瘍抑制効果を確認した。さらに詳細な検討を進めている。 4)発現実験の最適化を行っている。本発現系は、高濃度、長時間の培養条件では細胞への影響が大きい。PC12細胞における、本系を用いた発現は、非常に速やかで感染後約2時間で目的蛋白を確認でき、細胞への影響もほとんど見られない。さらに長時間感染においても、培地にacyclovirを1μg/ml添加することによって細胞への影響を減弱しうることを確かめている。 5)組換えHSVウイルス感染細胞の同定には、免疫組織染色が一般的である。しかし、これらの方法は頻雑であり、適当な抗体が存在しない場合行えない。そこで、amplicon plasmid内の発現ユニットの下流にCITE(CAP independent Translation Enhancer)配列とlacZ遺伝子を付加した。現在、α1サブユニット等について新たな構築を進めている。これにより、目的遺伝子のmRNAに融合した形でCITE-lacZ mRNAが合成され、目的遺伝子だけでなくCITE配列を持つmRNAも同時に蛋白質に翻訳される。lacZ産物であるβ-galactosidaseの発色反応は既に確立されているので、これを利用し感染細胞を同定できる。こうした新規のHSVベクターを順次開発している。
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