研究概要 |
申請者はHCVゲノムの複製機構を明らかにする目的でゲノム3'末端の構造について詳しい解析を行った。その結果,従来知られていなかった新たな構造が3'末端に存在することを発見し,3'X配列と名付けた。この3'X配列は98ヌクレオチドから成り,異なる型間で高度に保存されており,また特徴的な高次構造を取り得ることを明らかにした(Tanaka et al.J.Virol.1996)。3'X配列はゲノムの複製に中心的な働きをすると考えられることから,まず,RNA複製酵素などのHCV遺伝子産物との相互作用について検討した。真核細胞や大腸菌においてHCV遺伝子を発現させ,ゲルシフトアッセイ,UVクロスリンキングアッセイなどにより解析を行ったが,3'X配列との相互作用は検出できなかった。そこで,次に3'X配列と細胞性因子との相互作用を検討したところ,UVクロスリンキングアッセイにより複数の細胞タンパク質が3'X配列と結合することが観察された。種々の領域の3'末端配列を用いた阻害実験などにより,57kDaと38kDaのタンパク質が特異的な結合を示すことがわかった。このうち,結合の最も強い57kDaのタンパク質について詳しく解析した結果,これがポリピリミジントラクト結合タンパク質(PTB)と同一であることを発見した。3'X配列上のPTB結合部位も同定した(論文投稿中)。現在,細胞タンパク質の関与の元でHCVのゲノムがどのような機構で複製されるのか,という視点から研究を進めている。
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