インターロイキン-1βを活性型に変換する酵素インターロイキン-1βコンバーティングエンザイム(ICE)は、線虫Caenorhabditis Elegansのアポトーシス遺伝子ced-3とホモロジーがある。さらに、ICEとホモロジーをもつ蛋白分解酵素遺伝子群の存在が明らかとなり、Caspaseファミリーと呼ばれている。このCaspaseファミリーのなかで、アポトーシスに於いて中心的役割をしていると考えられているのが、CPP32(Caspase-3)である。CPP32のアポトーシスにおける機能を解析するために、定法に従いノックアウトマウスを作製した。CPP32ノックアウトマウスは、胎生18日まではメンデルの法則に従う比率で存在したが、そのうち約3分の1しか生まれてこなかった。生まれたCPP32ノックアウトマウスのすべてが生後3週以内に死亡した。ノックアウトマウスにおける異常は中枢神経系に限局して認められた。生後直後の正常マウスの大脳表面は平滑であるが、ノックアウトマウスでは表層が入り込み脳回様の構造を取っていた。また、異所性の細胞集塊が大脳皮質、海馬および綿条体に認められた。さらに、小脳、網膜においても過剰な細胞が存在した。ノックアウトマウスにおける神経細胞の異常は胎生12日ころより明らかであった。神経上皮が肥厚し、脳室の狭小化が認められた。生まれてきたCPP32ノックアウトマウスにおいては水頭症がかなりの頻度で合併するが、この脳室の変形が原因と考えられた。そしてアポトーシスの特徴であるpyknosisを有する細胞群が正常マウスに比べてノックアウトマウスでは減少していた。一方、胸腺細胞は正常に成熟し、種々の刺激に対してもアポトーシスが誘導された。これらの結果より、CPP32分子はその広範な発現にも拘わらず、神経細胞のアポトーシスにおいて中心的な役割を果たしていることが明らかになった。
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