研究概要 |
本研究では海馬に存在する亜鉛の生理的意義を明らかにすることを目的としてラットにスキナ-箱を用いて競争的摂食ストレスを負荷し脳内、特に海馬の亜鉛の動態に対する影響を検討した。 実験にはsle Wistar雄性ラットを用いた。4週齢で購入した動物を体重250グラムまで個別飼育し、その後飼料の投与量を制限して体重を200グラムに調整した。これらの動物は、スキナ-箱でレバ-押しによる報酬学習を訓練させた後、2匹の動物を同一のスキナ-箱に入れて競争的に給餌させることでラットに心理的ストレスを負荷した。この時、給餌口で待機していて餌が出て来たらすかさず獲得する動物(対照群)とレバ-押しをさかんに行うが餌はなかなか獲得できない動物(ストレス群)とに役割分担が形成される。これを1週間継続した後、動物を解剖して脳組織、肝臓および血漿を採取した。脳組織は小脳、延髄及び橋、視床下部、中脳及び視床、線条体、海馬、大脳皮質(前頭部、側頭部および後頭部)の9部位に分割し、組織中の亜鉛の他に銅、マンガン、鉄濃度を測定した。 海馬組織中の亜鉛濃度は、食餌制限の影響を受けず、また他の部位においても延髄・橋と中脳・視床で有意な低下を示したが、その他の部位では変動が認められなかった。銅は小脳で有意に上昇した以外は差が認められなかった。鉄は延髄・橋・視床下部、中脳・視床および大脳皮質の前頭部で有意な上昇が認められた。 競争的摂食負荷による脳内の亜鉛の動態は中脳・視床で有意な上昇を示したが、海馬を含むその他の部位では有意な変動が認められず、銅および鉄は全ての部位で有意な変動がみられなかった。競争的摂食ストレス負荷実験は、小川ら^*の報告を参考に行ったものであるが、今回の実験では小川らが示したようなラットでの明らかな神経症的症状が観察されなかった。この理由については明らかでないが、ストレスの感受性がラットの種によって異なる可能性も考えられる。今後はストレス負荷の方法を含めて明らかな実験的神経症が認められた個体について検討する必要があるものと考えられた。 *小川暢也、原千高:神経精神薬理、9(10)699-704,1987
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