研究概要 |
ディスコ,ライブハウスなど,音そのものを楽しむ娯楽の中には,比較的高レベルの音を長時間にわたって聴取することがある。筆者らは,その危険性について,これらの音により,実際に一時的な聴力損失が生じることを明らかにしている。しかし,このような音楽を聴取する娯楽においては,音のレベルを下げることには抵抗があることや,法的な規制がないことなどの理由から,聴力への影響を少なくするための手段は講じられていないのが現状である。そこで本研究では,聴力への影響がより少なくなるような音響システムの開発を試みた。 1.騒音性の難聴に特有な4kHz付近に生じる聴力損失(c^5 dip)が,外耳道による音波の共鳴に関連していると考え,既報の文献資料からその周波数レスポンスを推定した。 2.外耳道による周波数レスポンスを簡略化した上で,これを逆特性としたフィルタを作成した。各種音源を用い,フィルタを通すことによる変化を複数の被験者に判断させたところ,両者の間には聴感上の違いのあることが分かった。しかし,ディスコ等で流れる音楽を想定した場合,その差は無視できると推察された。 3.フィルタを通した場合とフィルタを通さない場合について,複数の被験者を対象に1時間の暴露を行った。暴露終了後,2,3,4,6,8kHzのテスト周波数について,一時的な聴力損失(TTS)を測定し,聴力への影響に対するフィルタの効果を検討した。その結果,フィルタを通すことで,3,4kHzの聴力においてTTSが有意に減少した。
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