雄成虫が蚊柱を形成する際に発する羽音を利用して、諏訪湖周辺域で社会問題化しているオオユスリカ成虫の誘引実験を野外で試み、その基礎データを集めることを目的に、1996年5月20日から6月30日まで調査は行われた。オオユスリカ成虫は、年3回、湖から発生するが、今回の調査時期はその2回目にあたる。本来であれば秋の発生時に向けた予備調査の時期であるが、今季に本実験を行った。実験は以下の手順で行われた。(1)雄成虫の羽音の解析:野外において、雄の羽音を超高感度マイクで録音し、オシロスコープで波長解析を行った。実験室内でも、クロロホルムで麻酔した雄成虫を小台の上に載せ、胸部のみを固定して、羽音を解析した。文献調査等からも、オオユスリカ成虫の羽の長さと羽音との関係を推定した。(2)トラップの開発:150Hzから510Hzまで30Hz毎に、各周波数を録音したエンドレステープを作成した(合計13本)。録音は、15秒で1周期とし、発音が10秒、無音が5秒とした。蚊で応用されているトラップを参考に今回作成を試みた。(3)野外実験(予備実験):実験時間、実験場所、何周期でデータとするかなど基礎的な予備調査を行った。その結果、実験時間は19:00-20:00、4周期(1分)または、8周期(2分)で1データとする事が決められた。(4)野外本実験:毎日の湖からの成虫発生量が異なるため、実数では単純に比較できないが、270Hzから300Hzにオオユスリカ雄成虫の誘引ピークがあることが明らかとなった。多い時には、2分間で478匹の雄成虫をトラップできた。光に比べると数倍の捕獲効率である。(5)光と組み合わせた野外捕獲実験:実際に従来のライトトラップ、音響トラップ、ライトと音響両方を備えた音響ライトトラップの3者を用いて、その捕獲効率を予備的に検討してみた。従来のライトトラップの捕獲効率を1とすると、音響トラップは約0.7倍、音響ライトトラップは約7倍の捕獲が確認され、光と音を併用することで、捕獲効率が極めて良くなることが明かとなった。
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