虚血性心疾患の予防は、わが国の保健上重要な課題である。しかしながら、一次予防の費用と健康改善との経済的な比較は、長期的な視点からは実施されていない。そこで薬剤の経済的評価を実施し、人工知能的手法を用いて、一次予防の経済的効率に関する評価を試みた。分析には、医学的情報を反映させやすいマルコフモデルを採用した。マルコフモデルの構築法は、今回新たに開発した遺伝的アルゴリズムに基づく方法を用いた。この方法により、マルコフモデルの状態数、状態遷移パスの有無、状態遷移確率の最適な値を推定した。分析に必要なデータは、わが国における狭心症と心筋梗塞の予後情報を、MEDLINEにより収集した。また、これらの情報からメタアナリシスを実施し、統計的統合化を行った。虚血性心疾患の発症率については、AndersonのWeibull関数を利用した。費用は診療録に基づいて、直接費用のデータを入手した。経済的効率を評価するために、分析期間を80歳までとし、費用-効果分析を実施した。この際、費用の現在価値を把握するために、年5%の割引きを行った。メタアナリシスを実施した結果より、1年あたりの梗塞後の急性期死亡率は17.7%、慢性期死亡率(心臓死)は2.1%となった。事例として、55歳の男性で最高血圧148mmHg、総コレステロール値275mg/dlの患者について、長期予後を推定した。薬剤による介入がない場合の80歳時の有病状態は、変化なし25.6%、狭心症7.4%、心筋梗塞13.4%、死亡53.6%となった。一方、薬剤による介入がある場合の有病状態は、変化なし31.1%、狭心症6.5%、心筋梗塞10.8%、死亡51.6%となった。費用-効果分析を実施した結果より、生存年を1年延長するための費用が、55歳の男性で320万円、女性で640万円と推定された。
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