本研究では自治体レベルでの精神保健福祉施策を比較するために、首都圏で早くから精神保健福祉サービスに取り組んできた東京都と、大都市圏外に位置する山口県の施策を対象にその変遷を追いそれぞれの地域の特徴と問題点について検討した。 2つの自治体の精神保健福祉施策を、戦後の国の制度・政策的な変遷を軸に4つの時期に区分した結果、各自治体の施策は、第1期(昭和25〜39年):無策あるいは精神科ベッド増床の時代、第2期(昭和40〜50年):「病院から地域へ」の兆し、第3期(昭和51〜62年):「働く場」の確保、第4期(昭和63〜現在):「生活の場」への拡大、と重点がほぼ共通して移行している。 さらに、東京都では地方精神保健福祉審議会の答申を基軸にして施策が展開している一方、山口県では答申が必ずしも施策に反映していない。ただし、東京都では運営主体となる豊富な任意団体の存在を背景に、小規模施設の運営費補助という形での社会資源の充実が中心で、精神保健福祉法に定める社会復帰施設の整備は遅れがちである。逆に、山口県では民間の任意団体等による小規模施設の設置は少なく、法内の社会復帰施設を中心に整備されているが、その数はまだ少ない。
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