魚油に多く含まれるn-3系高度不飽和脂肪酸(PUFA)は、抗血栓、抗動脈硬化作用などさまざまな生理機能を有することから注目を集めている。しかし、PUFAが細胞膜、血漿リポ蛋白などの構成成分として反映した場合、酸化的脆弱性が増大する可能性も予想される。そこで本研究では日常の食事レベルでの魚油摂取状況を考慮し、異なる摂取状況下における有効性と危険性の評価をラットを実験動物として、赤血球変形能および酸化的脆弱性におよぼす影響を指標に検討した。 5週齢のWistar系雄ラット(一群5匹)を1週間の予備飼育後、PUFA(イワシ由来トリグリセリド)含有量の異なる飼料を4週間給餌した。各餌料の脂質含有量は10%とし、フィードオイルの100%を大豆油としたc群、その10%をPUFAに置換したL1群、20%をPUFAに置換したL2群、40%をPUFAに置換したM群、80%をPUFAに置換したH群の5群を設けた。赤血球変形能の測定はフィルター透法、赤血球膜酸化的脆弱性の測定は鉄/過酸化水素系によって行った。赤血球膜のPUFA反映度(膜構成脂肪酸分析)、ビタミンEおよびリン脂質ヒドロペルオキシドの測定も併せて行った。 各群間で餌料摂取量、体重増加量ともに有意な差は見られなかった。赤血球変形能はH群が最も高く、以下M>L2>L1>Cの順であった。赤血球膜の酸化的脆弱性は、H群で顕著に高かった。赤血球膜のPUFA反映度と赤血球変形能との間には高い相関関係が認められた。赤血球の抗酸化性成分含量は、PUFA反映度が高いほど少なく、反対に過酸化脂質含量は多かったが、いずれもL2およびL1群はC群との間に有意な差は認められなかった。また、血漿脂質成分(質的、量的)、抗酸化性成分、過酸化脂質含量を指標にした検討も行い、同様の結果を得ている。以上の結果は、魚油摂取による有効性の発現、危険性の回避を明確にする上で非常に有用な知見であると考える。
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