交通事故の発生には車輌、人間、環境等の様々な要因が関与している。環境要因として北陸地方には冬季に多量の降雪があるという特徴がある。そこで、降雪期に発生した歩行者・車輌間および車輌・車輌間の衝突事故において、今回特に交通死亡事故に焦点を当て、人体損傷調査と事故状況・車輌損傷の調査を総合的に行ってその結果を考察したところ、それぞれの事故に特有な興味ある所見を見出したので報告する。 平成5年から平成7年までの3年間の12月、1月、2月、3月に発生した交通死亡事故96件について、事故の発生と降雪あるいは積雪との間に密接な因果関係がある事例を抽出した。これらの事例の中、被害者について当教室で司法解剖が行われたものはその解剖所見を調査対象とし、解剖が行われなかったものについては可能な限りの医学的調査を行った。また事故当時の気象状況は富山地方気象台の観測資料を用いた。 積雪あるいは降雪、当時の気温等の気象条件によって道路には特有の状況が生じ、事故発生の場面を提供している。車輌のスリップは、車輌速度、減速率、車輌重量、道路の形状等を要因として発生し、スリップ距離は車輌速度と車輌重量が関係している。また車輌破壊および人体損傷は衝突速度および衝突角度、車輌間の重量関係や車輌構造等に密接に関係していた。しかし、事故の主原因は車輌速度であり、運転の速度に対する甘い見通しによってスリップが発生している。なお特記すべき事例として、バック走行時にピ-ピ-という警戒音が出る車輌構造になっていれば、歩行者が車輌の接近に気付いて事故が起きなかったのではないかと考えられるものがあり、車輌メーカーにこの点の改良を求める必要がある。
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