本研究の目的は抗ムチンモノクロナール抗体MP-B11(以下MP-B11と略)のエピトープを含むムチン分子をとらえ、そのペプチド部分のアミノ酸配列を決定することで、既報のムチン分子との異同を検討し、あるいは新しいムチン遺伝子のクローニングをすることである。 正常ヒト胃液および粘液産生性膵癌臨床例の経皮経肝胆道ドレナージ液(以下膵癌粘液と略)からムチン分画を採取し、ゲル電気泳動・PVDF膜への転写後、MP-B11との反応性をみた。正常ヒト胃液では300-400kDaの分子量に相当すると考えられるスメア状のバンドが認められた。また膵癌粘液では80-100kDaのスメア状のバンドが認められた。膵癌粘液をTFMS、anisolを用いて化学的に脱糖鎖するとMP-B11との反応性は消失した。これら2種の糖蛋白質について、自動アミノ酸シークエンサーによりアミノ酸配列を決定した。正常胃液中のMP-B11反応性蛋白質からはN末端から4残基目からval-asn-gln-asp-p-phepro-glnの7残基が検出された。既報の蛋白質・ペプチドとの相同性を検索すると、イヌの精巣上体から分泌されるEpididymal secretory protein CE4と最も相同性が高いことがわかった。既報のムチン分子との相同性はみられなかった。今後この7残基をプローブとしてヒトcDNAライブラリーをスクリーニングすることで新たなムチン遺伝子がクローニングできる可能性がある。膵癌粘液中のMP-B11反応性糖蛋白質からはヒトアルブミンと一致する21残基が検出された。MP-B11とアルブミンは反応しないが、膵癌細胞でMP-B11のエピトープを持つ糖鎖化アルブミンが産生・分泌された可能性が示唆される。
|