本研究では、ムチン分子上の糖鎖が転移に対してどのような効果を持つか検討するため、まず、MUC1ムチンを発現していない大腸癌細胞株大腸癌細胞株CHCY1及び胃癌細胞株MKN7 4にMUC1 cDNAを導入したトランスフェクタントを作製し、これらの細胞株にBenzyl-α-GalNAcによる脱糖鎖処理を加えた状況での各細胞株の機能を、脱糖鎖処理を行わないMUC1トランスフェクタントおよび親細胞株と比較検討を行った。 まずレクチンを用いたフローサイトメトリーにより、MUC1トランスフェクタントの末端糖鎖の検討を行なった。その結果、これらの消化器癌細胞株では、MUC1のcDNAを導入することによりトランスフェクタントの細胞表面上に末端がLeX型の糖鎖の発現が増強することが明らかとなった。また、このLeX型糖鎖はBenzyl-α-GalNAcによる脱糖鎖処理によってその発現は減弱した。 次にin vitroでの細胞の運動能およびマトリゲルへの浸潤能を検討した。MUC1のcDNAを導入することによりいずれのトランスフェクタントにおいても、細胞の運動能および浸潤能が増強し、これらの細胞株にBenzyl-α-GalNAcによる脱糖鎖処理を加えることにより、増強された運動能、浸潤能は減弱した。 また、これらのトランスフェクタントをヌードマウス皮下に移植し、生体内での浸潤能を検討したところ、局所的浸潤が、MUC1トランスフェクタントで高頻度で観察され、in vitroでの実験結果と矛盾しない結果が得られた。 以上の結果より、腫瘍細胞上のMUC1分子はin vitroおよびin vivoにおいて腫瘍細胞の運動浸潤能を高めていることが示唆され、特にMUC1上の糖鎖がその機能に強く関与していることが伺われた。
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