研究概要 |
ヒト胃の細胞増殖と血管構築とを研究した結果,以下のような所見を得た.細胞増殖については,癌部においても非癌部においても組織毎に特徴的な増殖細胞分布がみられた.すなわち非癌部においては,胃底腺と幽門腺では腺頚部,完全型および不完全型腸上皮化生ではそれぞれ腺底部と腺管中層部に,いずれも比較的限局した増殖細胞帯がみられた.一方分化型胃癌では病巣内のいずれの部位にも増殖細胞がみられたが,深層に比し表層で標識率が高い傾向であった.未分化型胃癌でも病巣内のどの部位にも増殖細胞のみられる病変が多かったが,早期の印鑑細胞癌の中には層状の増殖細胞帯を形成するものもみられた.BrdU陽性細胞の分布とKi67等の他の増殖マーカーの分布との間には,相関があることもわかった. 血管構築の解析は必ずしも多くの症例に施行できたわけではなかったが,以下のような傾向がうかがえた.非癌部においては,組織毎に特徴的な粘膜固有層の血管構造がみられた.癌部においては,血管が増生していることが多く,これが癌部が発赤調に見える原因と思われた.ところが早期の印鑑細胞癌の一部では非癌部の血管構造のままで,正常上皮の構造の間に癌細胞が散在している病巣もみられた.このような病巣では癌細胞の浸潤した分だけ相対的に血管が疎となり,肉眼的に白色調に見える原因ではないかと思われた.またこのような病巣は相対的に虚血に陥り易く,びらんが発生しやすいのではないかと考えられた.未分化型胃癌に時に見られる,発赤と退色の混ざった色調は,このような成因によるのではないかと推測された.
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