高分子糖蛋白質を構成成分とする胃粘液は、Helicobacter pylori(H.pylori)の生息部位であり、その糖鎖構造が菌体の定着に影響を及ぼすことが考えられている。本研究において、動物間で認められる糖鎖構造の違い、あるいは薬物処理により変化を受けた胃粘液糖鎖構造がH.pylori定着にどのように影響するかを検討した。 ヒト、ラット、マウス、スナネズミ、ウサギ、ブタ、カエルの胃粘液中の中性ムチン、酸性ムチンやシアル酸、硫酸基、フコースおよびルイス^b(Le^b)を含むムチンを組織学的に染め分けて検討した結果、胃粘液糖鎖構造において種差が認められ、H.pyloriの実験動物に対する定着制は胃粘液の糖鎖構造により影響されるものと考えられた。また、ムチンとH.pylori(患者由来)の結合糖鎖について、ブタ由来胃ムチン(和光純薬)を吸着させたELISAプレートに各種レクチンおよび抗ルイス^b抗体を添加し、H.pyloriの結合に及ぼす影響を検討した。 UEA-IおよびMAL-IIレクチン、抗ルイス^b抗体の添加で結合は有意に阻害され、フコース、シアル酸およびLebはいずれもH.pyloriの定着に影響するものと思われた(論文作成中)。さらにアスピリンの5日間連続投与により表層粘液中のシアル酸含量が著しく増加したことからH.pyloriの定着に影響することが予想された(第97回米国消化器病学会発表、第5回欧州消化器病学会発表、投稿中)。現在、この胃粘液を分離・抽出して精製ムチンを得ており、アスピリンがH.pylori定着にどのように影響するのかを検討する予定である。
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