研究概要 |
各種内在性調節因子による胃粘膜防御能の制御機構の解明を目指して、胃粘液代謝の指標となり得るムチン生合成活性の変化に焦点を絞りラット胃粘膜器官培養系を用いて、各種酸分泌刺激物質(ガストリン、ヒスタミン、カルバコール)のムチン生合成亢進作用におけるNitric Oxide(NO,一酸化窒素)の関与を比較検討し以下のような結果を得た。 1.NO合成酵素阻害薬であるN^C-nitro-L-arginine(L-NNA)単独培地内添加について検討したところ、10^4MまでのL-NNA単独では胃体部・前庭部共にムチン生合成活性(^3H-glucosamineの取り込み)は対照と同程度の値を示し有意差を認めなかった。 2.次に、ガストリンの胃体部ムチン生合成亢進作用に対するNO代謝系の関与を検討するため、L-NNAを10^5M併用添加したところ、ガストリンの作用が完全に抑制されることが明らかとなった。このL-NNAによる抑制作用はL-arginine5x10^3Mの投与により消失し、D-arginineでは変化がないことが確認された。 3.ガストリンの作用におけるNOそのものの役割を明らかにするため、さらにNOのみを消去できる新しいタイプのNO消去薬Carboxy-PTIOを用いて同様の検討を行ったところ、10^4Mガストリンの作用は10^5Mの濃度のCarboxy-PTIOで完全抑制された。 4.ガストリンとは対照的に、ヒスタミン及びカルバコールによるムチン生合成亢進作用はL-NNAにより全く影響を受けなかった。 5.以上の結果より、胃ムチン生合成に調節因子として作用する酸分泌刺激物質のうち、ガストリンはヒスタミン、カルバコールとは異なりその制御過程の一部に一酸化窒素代謝系の関与があることが示された。
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