1.外科的切除あるいは剖検によって得られた肝癌組織標本の癌部と非癌部組織からmRNAを抽出し、ノザンブロット法でメタロチオネイン(MT)イソ蛋白質(MT-1およびMT-2)mRNAの発現を観察した。癌部におけるMTmRNAの発現量は非癌部のそれよりも低い傾向を示した。また、癌部と非癌部組織の何れにおいてもMT-1mRNAの発現量はMT-2のそれよりも多く認められた。 2.組織標本のMT蛋白質の発現を免疫組織学的に検討した。遺伝シレベルでの検討と同様に、癌部組織は非癌部組織と比較して発現が低い傾向が認められた。また、患者背景(特に抗癌剤投与の有無)とMT蛋白質の発現は相関している可能性が示唆さた。今後は癌の組織型による差異を明らかにする必要があると考えられた。 3.切除された癌組織の初代培養細胞を用いて、肝癌細胞のMT発現量に術前の抗癌剤投与が与える影響を遺伝子ならびに蛋白質レベルで検討した。抗癌剤を術前投与された群と非投与群では抗癌剤とサイトカイン添加によるMTの発現はさほど差異が認められなかった。しかし、抗癌剤添加による初代培養細胞の生存率は抗癌剤の術前投与群が高い傾向を示し、MTが抗癌剤耐性因子として働いていることを示唆した。ただし細胞株により若干の相違が見出されており、MTイソ蛋白質の発現パターンが異なっている可能性が示唆された。 以上の実験結果よりヒト肝細胞癌においてメタロチオネインが抗癌剤耐性因子として機能していることが実地臨床上でも示唆された。
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