研究概要 |
固形腫瘍の増殖に必須である血管新生を抑制することは固形腫瘍の新しい治療法として注目されている。また、肝細胞癌は非常に血管に富む悪性腫瘍の一つであり、血管新生の抑制は肝細胞癌の治療に大きく寄与するこが期待できる。本研究で我々は血管新生抑制の肝細胞癌治療応用にへの基礎的研究として肝細胞癌の血管新生因子産生制御について以下のように検討した。 培養ヒト肝癌細胞(HLE,HLF,Huh7)を用いて、主な血管新生因子であるbasic fibroblast growth factor(bFGF),vascular endothelial growth factor(VEGF)の産生を検討し、最も血管新生を誘導すると言われている低酸素下でのこれら因子の産生誘導についてRNase Protection assay法で検討した。培養肝癌細胞を低酸素下(酸素濃度5%)で24時間培養すると大気酸素濃度で培養したコントロール群に比べ有意にVEGFのmRNA発現の増加が認められた。bFGF mRNAに変化は認められなかった。また、肝癌細胞培養液中のLEISA法によるVEGF蛋白濃度は培養6時間目よりコントロール群に比べ低酸素培養群で有意に上昇していた。免疫組織化学法を用いたヒト肝癌組織における検討では径10mm程度の非常に小さく血流の乏しい肝癌組織ではVEGFの発現が乏しく、腫瘍径の大きい肝癌組織では過剰に発現していた。以上より、低酸素条件は培養ヒト肝癌細胞のVEGF産生を誘導し、VEGFは肝細胞癌の血管新生に強く関与していると思われた。今後はこのVEGFの産生誘導に関係する他の因子の同定や誘導因子の核内、細胞内情報伝達、VEGFmRNA転写調節についての検討を行いたい。
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