研究概要 |
今年度は肺腺癌の癌性胸膜炎患者より胸水を採取し,サーファクタントアポ蛋白質(SP)-AについてRT-PCRを行いmRNA検出の確立を試み,また,その結果と胸水中SP-A濃度測定・免疫細胞化学的検討との比較検討を行った.RT-PCRでSP-AmRNAは肺腺癌11例中9例に検出されたのに対し,他疾患32例では全て陰性であり,RT-PCR法の有用性が確認され,SPmRNA検出法が確立した.これら肺腺癌11例に対し免疫染色を行ったところSP-AはmRNA陽性9例中7例で陽性で,2例では陰性であった.この結果よりSPmRNAが発現していてもSPは必ずしも産生されるとは限らず,ある種の癌細胞においてSP産生経路での障害が存在することが示唆された.また,SP-AmRNAの検出されなかった肺腺癌例での胸水中SP-A濃度は平均38ng/mlに対し,検出された例では1611ng/mlと有意に上昇していた.しかし,免疫染色でSP-Aの発現が認められた例でも28.9ng/mlと低値のものがあり,細胞質からの分泌障害を有する細胞が存在する可能性も示唆された.現在,SP-B・SP-CおよびSP-Dについて免疫染色とRT-PCRの比較検討を行っている. 今年度の研究でmRNAおよび蛋白質レベルでのSP発現の検出に対する実験系が確立された.今後は,当教室で確立された7種類の胸水由来肺腺癌細胞株を使用し,培養液中に種々のサイトカインおよび細胞外基質を加え,SPmRNAの発現の変動・SPmRNAからSP産生および細胞質からのSP分泌の経路に対する諸因子の関与を検討していく予定である.
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