高濃度酸素吸入による急性肺傷害機序に活性酸素が関与していることが知られいる。N-アセチルシステイン(NAC)は、強力な抗酸化作用を有するのみならず、細胞内グルタチオン濃度を上昇させ、高濃度酸素性肺傷害に対する抑制効果が期待される。本研究では、ラット高濃度酸素性肺傷害に対するNACの抑制効果を検討した。SPFラット(10週齢、ウイスター系雄)15匹を、(G1)空気吸入生食投与対照群、(G2)100%酸素吸入生食投与群、(G3)100%酸素吸入+NAC投与群の3群に分けた(各群n=5)。酸素曝露開始時および8時間毎に、NAC(ムコフィリン;150mg/kg)又は生食を腹腔内投与した。酸素もしくは空気に48時間曝露した後、肺水腫の指標として肺組織湿乾重量比(W/D)を、肺微小血管透過性亢進の指標として気管支肺胞洗浄液中総蛋白濃度(TP)を測定して、急性肺傷害の程度を評価した。結果は以下の通りであった(平均±標準誤差)。W/Dは、G1:5.12±0.13、G2:6.75±0.19、G3:6.20±0.09で、TP(mg/dl)は、G1:5.5±0.7、G2:119.0±21.1、G3:66.6±6.8であった。以上の結果より、NACが高濃度酸素による肺水腫と肺微小血管透過性亢進を、有意(p<0.05)に抑制することが示された。今回、NAC製剤として日本で唯一入手可能なムコフィリンを用いた。本来は吸入用で、アセトアミノフェノン中毒時に経口投与する製剤であるため、飲料水にNACを入れて経口投与しようとしたが、ラットがその水を飲まないため、腹腔内投与に変更した。腹腔内投与における問題点として、ムコフィリン中のメチルパラベン等の溶媒の影響や、腹腔内浮腫による吸収障害などが、考えられた。今後、欧州等で用いられている静注用NACで追試した後、摘出環流肺における活性酸素産生能の比較検討を行い、NACの高濃度酸素性肺傷害の抑制機序を検討する予定である。
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