研究概要 |
作業記憶は短時間情報の保持をしながら同時にそれに処理を加える認知過程で,注意機能,痴呆との関連で注目されている.しかし作業記憶が大脳のどんなシステムと結びついた過程かはまだ結論が出ていない.そこで我々は高い時空間分解能を持つ脳磁図(MEG)を用いて作業記憶における情報処理の機構を時間的,空間的に解析することを目的とした. 【対象と方法】健常成人13名(男11名,女2名,平均年齢28.9歳)を対象とした.64チャンネルヘルメット型MEG(CTF/Osaka Gas社製)を用いて作業記憶課題を遂行中の磁界を測定した.作業記憶課題として,スクリーン上に日本の昔話と無意味文字綴りが1文節づつ4個現れ,それを黙読しながら話の文脈を保持する課題を施行した.対照としては無意味図形を同様に呈示する課題を用いた.文字呈示をトリガーとして誘発される磁界を記録し,時間系列上のピーク潜時において,電流双極子モデルを用いて信号源推定を行った.またMRI(Signa Advantage, GE Medical System, 1.5T)を用いて,連続スライス圧1.5mmのT1強調MRI画像を同一対象について撮影し,立体画像を再構成した.MEG,MRI測定時に付けた座標マーカーを利用して,コンピューター上でMRI立体画像と信号源とを重ね合わせ,時間の流れに沿って信号源の解剖学的位置がどのように変化していくかを検討した. 【結果】黙読課題では有意味文節,無意味文節ともほぼ同様の等磁界線図が得られた。電流双極子は300ms前後で左側頭葉中心に,400ms前後で両側頭頂側頭葉(左優位)に推定された。また400ms以降の両側前頭葉の磁界は黙読,対照課題の両者で認められた。 【考察】言語性作業記憶は左半球優位に処理され,広範な神経ネットワークが関与すると考えられた。
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