研究概要 |
筆者は脳虚血6時間海馬CA1において明らかにIP3特異的結合量が減少することを報告した.また,IP3受容体のモノクロナール抗体による免疫組織学的検討では虚血,非虚血で明かな染色性の低下がなかったことよりIP3受容体自体の減少(受容体破壊もしくはDOWN-REGULATION)の可能性よりもIP3結合能の低下が示唆された.この変化は虚血2時間の時点でも見られるが,30分虚血では見られないことより,2時間から30分虚血の間で変化が起こっているものと考えられた.以上よりIP3特異的結合量減少はIP3受容体の構造変化に起因する可能性が高いと考えられる.また,近年Thimerosal(SH基に働く)によりIP3受容体の高次構造が変化し,IP3結合能を変化するとの報告があり,脳虚血においても同様にSH基によるIP3特異的結合能の変化を中心に検討している. 今回はのジスルフィド結合を変化させ,酸化還元状態を変化させる酵素,チオール特異的アンチオキシダントに注目した.チオール特異的アンチオキシダントはChaeらにより牛脳よりクローニングされた25-kDaの酵素であり(Chae et al.Proc Natl Acad Sci USA 91:7022-7026,1994.),現在までに数々報告されている酸化還元酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)とは異なりタンパク質高次構造を形成するジスルフィド結合を変化させる.このようなことから脳虚血時のタンパク質高次構造変化に重要な役割をはたしていると考えられる.そこで脳虚血時のチオール特異的アンチオキシダントの発現及び脳内分布を調べる目的で,チオール特異的アンチオキシダントの変性オリゴヌクレオチドプローブを用いてPCR法により目的のcDNAを採取し,これを用いてタンパク質を大腸菌に発現させ,抗体を作成に成功した.作成した抗体にてWestern blot法を行ったところ,正常脳にて25kDaのところにバンドを確認した.2時間および6時間一側総頚動脈結紮モデルの虚血側では,この抗体によるバンドの出現に変化がなった.今後,虚血負荷の検討及び免疫組織学的に脳内分布を調べていく予定である.
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