研究概要 |
心室細動の治療には心臓への直流通電が有効だが,通電と細動の関係には不明な点が多く,通電が心臓に障害を発生させる等の問題点がある.また細動発生は,心室興奮伝播の異常なre-entryによることが分かってきた.re-entry発生機序として,通電による不応期変化が考えられる.本研究は,不応期変化の計測・シミュレーション解析が可能なシステムの開発を目的とし,文部省科学研究費の補助により既に試作した電位計測装置,及び二次元心臓興奮伝播シミュレーションモデルを基に,心表面上から不応期の計測が可能な装置,並びに不応期変化を考慮した三次元心臓興奮伝播シミュレーションモデルの開発を行った.モデルは心筋細胞に対応した1mm角の立方体形状のボックスセルモデルを17492個用い,単軸直径50mm,長軸半径50mmの楕円形状による心室モデルとした.本モデルは心外膜,心筋内部,心内膜の3層構造とし,左心室と右心室間の心室中隔も構成した. 開発した不応期計測装置を用い,Langendroff灌流下のモルモット心臓にペーシング,連結期及び電圧を変化させた直流通電を与える動物実験を行った.この結果,re-entryが発生した条件下の不応期分布は通電前に比し,空間不均一性が増加した.同様の条件のペーシング及び直流通電を開発した三次元心室モデルに与えた結果,シミュレーションにおいてもre-entry発生が認められた.この場合,モデルの初期状態では不応期には不均一性を持たせなかったにも関わらず,通電により心筋各部の不応期に空間不均一性が発生していた.この結果から,通電が不応期の空間不均一性を作り出し,その結果としてre-entryが発生するという機序が確認された.
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