研究概要 |
一酸化窒素の酸化物であるペルオキシナイトライトの冠動脈内血栓形成に対する影響およびその調節機構を検討するため,以下の実験を行った.雑種成犬を麻酔下に開胸し,左冠動脈前下行枝を剥離後冠血流測定用超音波パルスドプラープローブを装着.その末梢側に冠狭窄を施し,血栓による冠動脈閉塞と自然再潅流を繰り返す実験的冠動脈血栓症モデル(CFVs)を作製した.CFVs出現後、冠血流パターンを含めた血行動態を30分間観察した後、生理食塩水またはN-アセチルシステイン(100mg/kg)の静脈内注入を行い60分間観察した.その後,ペルオキシナイトライトの冠動脈内持続注入(狭窄部直上の左冠動脈対角枝より)を行い冠血流動態を更に60分間観察した.生理食塩水投与群では,ペルオキシナイトライトの冠動脈内意持続注入によりCFVsの悪化(発生頻度増加および平均冠血流量減少)を認めた.N-アセチルシステイン投与群では,生理食塩水投与群に比しCFVsの発生頻度に低く平均冠血流量は高値を示した.このことはペルオシナイトライトがin vivoで血小板凝集促進に働くこと,およびチオール(アンチオキシダントの一種)の供給体であるN-アセチルシステインがペルオキシナイトライトの血小板凝集促進作用を何らかの機序で減弱させることを示唆している.今後は,上記の機序解明のため,血小板中総チオール量や還元型および酸化型グルタチオンの定量,血小板中のサイクリックGMP量の測定を行う.また,ペルオキシナイトライトは蛋白のチロシン残基をニトロ化してニトロチロシンを生成することが知られており,抗ニトロチロシン抗体を用いて血栓形成部末梢の心筋組織を染色する事でペルオキシナイトライト暴露量を観察する.
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