研究概要 |
今年度の研究により遺伝性心筋症ハムスター(BI014.6)心筋では、細胞骨格系の蛋白質dystrophin(Dys)とその結合蛋白質群(DAP)との複合体が正常に形成されておらず、筋肉細胞特異的なDAPであるα(アダーリンのこと)-,β-,γ-,並びにδ-サルコグリカン(SG)が著しく減少または消失していることが明らかにされた。さらに心筋症ハムスター心筋におけるα-,β-,γ-SGのmRNAの発現量や翻訳領域のcDNA配列はどれも正常であったが、δ-SGのmRNAが発現しておらずこの蛋白質の遺伝子に異常が存在することが示唆された。またSGの機能解析及びDys複合体形成に重要な役割を果たす蛋白質の検索を行うため心筋と類似したDys複合体を発現する骨格筋株細胞を用い、SGに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入してSGを欠損させた細胞モデル系を構築した。α-,γ-SGを欠損させた細胞では、細胞接着能の低下が観察されたので、SGと細胞接着との関連を検討したところ、Dys複合体と細胞接着に関与するインテグリンとの間に密接な相互作用が存在することが明らかにされた。すなわち正常な細胞可溶化物からは、DysまたはSGに対する抗体によってDys複合体と共にインテグリンとその結合蛋白質群が共沈殿したが、α-,γ-SGを欠損させた細胞においては、これらの蛋白質が免疫沈降物から40〜60%失われていた。一方、細胞接着にともない,α-,γ-SGのチロシン残基のリン酸化が観察された。これらの結果はDys系がSGを介してインテグリン系と情報伝達を行うことを強く示唆する。
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