ミトコンドリア異常症は、単一遺伝子病としては最も頻度の高い疾患で、その症状は多彩である。我々は、幼児期に発症した心筋症と全身性の筋力低下、筋緊張低下を示した兄弟例についてミトコンドリアDNAを調べた結果、非常に稀な現在までに唯一、一家系でのみ報告されている、ミトコンドリアDNA3303番目のシトシンからチミンに置き換わる、t-RNALen(UUR)の3'末端に近い変異を認めた(C3303T)。既報の症例でも我々の症例と類似の症状(心筋症、全身性筋力低下、新生児期死亡)が認められている。このミトコンドリアDNAの変異は我々の症例も既報の新生児期発症の重症例でも同様に種々の臓器に於いてホモプラスミ-を示していた。3303T変異はt-RNALeu(UUR)のアミノアシルステムに位置しており、この変異がミトコンドリアRNAのプロセッシングシグナルとして重要なt-RNAの機能に影響し、病因として関与している可能性が強く示唆された。 また、我々は同じ症例において、現在まで報告のないミトコンドリアDNA8348番目のアデニンからグアニンへの変異を発見した。この変異はt-RNALysのtΨc loopの異常でt-RNALysの機能に影響を与える事は想像に難くない。この変異も各臓器でホモプラスミ-を示した。現在までに30人のコントロールで調査した結果、この変異は認めていないが、未だ完全にポリモルフィズムの可能性は否定されないため、病因論に関しては引き続き検討を要する。
|