新生児呼吸障害の既往児に生後数ヵ月で完全な難聴を呈する群がいることを報告してきた。本群は聴性脳幹反応(ABR)が無反応との特徴を持つ。本研究は周産期の外因による幼弱蝸牛器官(内耳細胞、ラセン神経節細胞)、脳幹聴覚路の細胞障害を明らかにすることを目的にした。幼若ウサギ(2-3週齢)に1)一過性(5%O_2:5分)2)軽度持続性(10%O_2:120分)3)高度持続性(5%O_2:120分)低酸素負荷を与えた。以後経時的にABR、Otoacoustic emission(OAE)反応を計測した。ストレス応答はHSP-72を蝸牛ラセン神経節細胞、橋聴覚路核下丘細胞で免疫組織的に検討し、細胞骨格蛋白MAP-2を免疫組織化学および免疫ブロット法で検討した。結果:1)ABRは高度持続群P1-P5波間潜時の延長がみられ、P5振幅も高度持続群で有意に減少した。OAE反応は高度負荷でも急性変化は少なかった。2)免疫組織学所見:HSP-72発現は高度負荷群3例で強く、陽性細胞は高度持続群のラセン神経節、上オリーブ核と臓側蝸牛神経核に多かった。下丘のMAP-2染色性は高度負荷でわずかに減少した。蝸牛のラセン神経節細胞にもストレス応答が出現していた。3)免疫ブロット:高度持続群では橋及び延髄で72kDaのバンドが検出された。橋が下丘や延髄よりも強いHSP-72の発現がみられた。神経節細胞の核崩壊は得られなかった。ABR変化は低酸素・虚血とアシドーシスによる変化と一致し、上部脳幹での細胞骨格の障害とストレス応答が低いことによってもたらされた可能性がある。本研究により蝸牛器官のうちラセン神経節細胞は短期間では低酸素抵抗性があることが判明した。今後、内耳有毛細胞の遅発性障害の有無について検討を進める必要がある。
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