研究概要 |
蛋白のチロシン残基をリン酸化する酵素であるチロシンキナーゼは細胞の増殖、分化および癌化に関わる情報伝達に重要な役割をはたしていると考えられており、その異常は種々の病的状態を引き起こし得る。私は皮膚で発現しているチロシンキナーゼの分子生物学的解析を行なった。 B6新生児マウス皮膚よりmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて皮膚由来のcDNAプールを作製した。チロシンキナーゼ・ファミリーに特異的なDNAプライマーを合成し、上記cDNAプールを用いてPCRを行なった。PCR産物の塩基配列を決定したところ、14個の既知チロシンキナーゼの他に2つの新しいチロシンキナーゼを見いだした。その中の1つ(PTK70と名付けた。)の完全長cDNAをクローニングし、その一次構造を決定したところ、細胞質型のチロシンキナーゼであり、src遺伝子のようにunique,SH2,SH3 domainを持つが、C′末端の自己リン酸化部位を欠損しているという特異な分子であることが明らかとなった。また皮膚におけるPTK70の発現をRT-PCR法により解析したところ、その発現はケラチノサイトに特異的であり、メラノサイト・線維芽細胞には認められないことが明らかとなり、ケラチノサイトの増殖、分化、癌化などに関与している可能性が示唆された。
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