研究概要 |
癌細胞の局所浸潤,遠隔転移のプロセスにおける細胞外マトリックス(ECM)の分解は,必須かつ積極的な作用である。細胞外マトリックスの分解は,分解酵素である組織メタロプロテナーゼ(MMPs)およびその抑制酵素である組織メタプロテナーゼインヒビター(TIMPs)の相互的なバランスにより調節されている。また,ウロキナーゼタイプ・プラスミノーゲンアクチベータ-(u-PA)は,ECM構成糖蛋白の分解とMMPsの活性化に関与している。癌細胞の浸潤・転移のメカニズムを解明する目的で,これらの酵素の組織内発現を調べている。 本年は,皮膚癌の中でも有棘細胞癌におけるMMPs,TIMPs,u-PAおよびu-PAのレセプター(u-PAR)の組織内発現およびそれらの局在を調べた。方法としては,目的とする分解酵素のcDNA・fragmentをRT-PCR法にて作製し,plasmid (p Bluescript II)にサブクローニングした。これよりT3およびT7プロモーターを介してDigoxigenin labelled RNA probesを作製,ホルマリン固定パラフィン包埋標本にて,in situ hybridizationを行った。MMP-1は腫瘍細胞およびその周囲の間質に広く発現がみられた。一方u-PAおよびu-PARは,より限局した部位の,主として腫瘍巣,先進部における腫瘍細胞内に発現がみられた。u-PAとu-PARの局在はほぼ同様の分布を示した。これらの結果より,MMP-1は、癌細胞全体における細胞外マトリックス分解活動の指標と考えられた。またu-PAおよびu-PARは、癌細胞が浸潤していく局面において、重要かつ積極的な働きをなしていると考えられた。 なお本内容の要旨は,第5回日本癌病態治療研究会(1996年5月10日,浜松)および第5回日本形成外科学会基礎学術集会(1996年10月18日,長崎)にて発表した。
|