研究概要 |
本研究では遺伝子工学的手法を用いて伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus,MCV)DNAのクローニングを行い、チミジンリン酸化酵素(thymidine kinase,TK)をコードしている遺伝子(TK gene)の同定を試みた。まず患者より摘除した伝染性軟属腫より蔗糖勾配法によりMCVのウイルス粒子を分離、精製した。ウイルス粒子よりMCV-DNAを抽出し、制限酵素Hind III、BamH I、Cla Iで切断したところ、アガロースゲル電気泳動にてMCV type 1のvariantに一致したDNAの切断パターンがみられた。このDNA断片をプラスミドpUC19、pBR322またはコスミドcharomid9に挿入しクローニングを行い、最終的に両端ヘアピン部を除くMCV-DNAの全領域をコードするgene libraryを作製した。過去の報告によればボックスウイルスの間ではTK遺伝子の塩基配列の相同性が高いとされているので、Southern hybridationによるTK遺伝子のscreeningを試みた。ワクチニアウイルスのJ fragment内にはTK遺伝子がコードされているが、これをプローブとしてSouthern hybridationを行ったところCla IのF断片とhybridizeした。Cla IのF断片をTK-negativeのワクチニアウイルスに挿入し、methtrexate存在下でこの遺伝子組み換えウイルスの継代を試みたが継代は不可能であり、TK遺伝子の機能は確認出来なかった。Cla IのF断片の塩基配列を調べたところワクチニアウイルスのJ fragmentと非常に相同性の高い塩基配列がみられたが、TK遺伝子に類似した配列はみられなかった。従ってMCVにはTK遺伝子は存在しないと考えたが、その完全な証明にはMCV-DNAのfull sequenceが必要である。
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