頭頚部領域の悪性腫瘍の放射線治療では口内炎、味覚障害とともに口渇が出現し、他の障害に比べて口渇は治療後長期に回復せず、患者のQOLを低下させる。その原因は唾液腺が放射線治療により機能低下をおこすためであり、近年は放射線照射による唾液腺細胞のアポトーシス現象が関連していると考えられている。腫瘍の根治性に影響を与えず、アポトーシスを阻止できる照射法を開発することを目標として、臨床的、実験的検討を行った。 唾液腺および口腔内以外の部位の悪性疾患患者を対象に臨床的検討を施した。放射線治療の照射野に唾液腺特に耳下腺が広範に含まれる患者で、放射線治療中の血清アミラーゼ値の変動を解析した。照射開始3-5日((5-10Gy照射時)で血清アミラーゼの急激な上昇を認める症例が多く、この際約半数に耳下腺部の疼痛を認めた。照射開始後数週で血清アミラーゼ値は徐々に低下した。同意の得られた症例では、照射前後で唾液腺のシンチグラフィーを施行した。ほぼ全症例で唾液分泌障害を認めたが、その際の自覚症状の強さとの関連は明らかでなく、今後さらに詳しい定量的解析が必要と思われた。放射線治療に併用された薬剤としてはシスプラチンが最多であり、蛋白合成阻害作用を持つため、アポトーシス抑制作用が期待されたが、臨床上は唾液腺機能抑制作用はシスプラチン併用の有無で明らかな違いは認められなかった。 ラットを用いて放射線照射後のアポトーシスの頻度を組織学的に検討したが、放射線の照射量増大に応じてアポトーシスの頻度は増大した。アポトーシスを抑制する目的でサイクロホスファミド、シスプラチン、5-FUを種々の濃度とタイミングで作用させる実験を現在試行中である。
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