視束前野の抗ストレス反応機能について知るために、雄ウイスターラットを用いて同部位の破壊実験を行い、以下の結果を得た。1 自由回転ケージを用いて測定した自発行動量は、両側視束前野電気凝固的破壊後、6.2倍に増加した(n=6)。一側破壊(n=5)、及び破壊が全く視束前野にかからなかった群(n=8)では、ほとんど変化がなかった(それぞれ0.8倍、0.94倍)。カイニン酸による視束前野の選択的細胞体破壊でも(n=6)ほぼ同様の結果であったが、自発行動量の増加はより顕著であった。2 視束前野両側破壊後、昼夜行動リズムに著しい変化が観察された。即ち、破壊前の明期行動量は、一日行動量の3%程度であったのだが、破壊後30%前後(n=6)に著増した。両側の目的部位が完全に破壊された(化学的破壊)ラットでは、終日ほぼ同じペースで走り続け、行動量も破壊前の約20倍に増加したものもあった。3 副腎重量は、視束前野破壊群で増加する傾向が認められたが、断頭時期が一定していないため、現在、破壊から断頭までの期間を一定にして、検討を進めている。また、断頭時、全ての血清を保存しており、4の実験と合わせて、下垂体-副腎系ホルモンの測定をいずれ行う予定である。4 現在、視束前野破壊ラットに短期拘束ストレスを加え、経時的に下垂体-副腎系ホルモンを測定する実験を行っている。5 視束前野破壊後の行動面では、非常に落ち着きのない、攻撃的な変化が認められた。例えば、ケージ内に棒を差し込むだけで、しばしば噛みつき攻撃がみられた。 以上の結果より、視束前野は、行動・睡眠-覚醒・行動様式・下垂体-副腎系の全ての面において、tonicな鎮静作用を持つことが示唆される。拘束ストレス負荷実験により、さらに視束前野が、抗ストレス機能を有することが明らかになりつつある。
|