海馬障害が各種ストレス刺激に対する反応機構にどのような影響を与えるかを検討するため、神経毒(トリメチルスズ:TMT)により海馬障害を生じさせたラットにおいて、脳内各部位の神経ペプチド含量を指標として、ストレス刺激に対する反応を調査した。 各ペプチドの含量についてはTMT投与後4日目にストレス負荷をかけた場合、TMT投与群で視床下部においてのみNPY含量が有意に減少していた。しかし、各部位ともにストレス負荷の影響による有意差は認められなかった。TMT投与後15日目にストレス負荷をかけた場合については、扁桃体、海馬、梨状葉、嗅内野の各部位において、TMT摂取によりNPY含量が有意に増加していた。扁桃体においては、ストレス負荷の有無によってもNPY含量に有意差が認められ、ストレス負荷後に増加していた。TMT摂取とストレス負荷の交互作用は認められなかった。CRFとソマトスタチンについてはTMT投与後15日目のストレス負荷ではいかなる部位においても各群間に有意差は認められなかった。 副腎摘出術(ADX)の影響を調べるために、コントロール、ADX群、ADX+TMT投与群、ADX+TMT投与+ストレス負荷群、ADX+コルチコステロン補充+TMT投与+ストレス負荷群の5群において、上記と同様の拘束ストレス負荷をかけ、ストレス負荷前後での体温の測定、およびストレス負荷後の各神経ペプチドの測定を行った。NPYについてはいずれの部位においてもコントロールとADX群の間には有意差は認められず、TMT投与した群で視床下部では減少、他の部位では増加する傾向が見られた。ADX+TMT投与群ではストレス負荷の有無による変化は認められなかった。TMT投与により辺縁系でNPY含量が増加するというのは上記の結果と全く一致しており、その確度は高いと思われる。また、ADXは修飾的な作用を有するのであって、それ自体ではNPYの変化には作用しないことが示唆された。
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