研究概要 |
感情障害死後脳でのcAMP生成変化の意義を解明することを目的としてcAMPと関連した細胞・核内シグナル伝達系の構成要素とくにcAMPの産生酵素であるアデニル酸シクラーゼ(AC)に焦点をあて検討した。動物および培養細胞実験による報告から、脳に特異的に発現するCa^<2+>/CM(Calmodulin)感受性(促進)ACであるI型、神経組織を含み広く分布しているCa^<2+>/CM非感受性のII型、IV型,Ca^<2+>/CM感受性(抑制)のV/VI型をヒト死後脳においてその分布、量的検討を行った。その結果ヒト大脳皮質におけるACの分子種の比率はACI : II : IV :V/VI=11:1:1.3:1.4であり、ACI型がヒト脳内の主要な分子亜型であることが判った。うつ病においてACのI型の量的減少傾向、II型が有意な減少を示した。このことは過去のの我々の報告したうつ病群での基礎及びマンガン刺激AC活性の低下と一致した結果と考えられた。今後情動などヒト脳高次機能とACの分子種との関連に興味が持たれ、うつ病の成因に深く関与している可能性が示唆された。さらにうつ病群においてAC機能の低下していることはより情報伝達の下流領域に関するcAMPシグナルカスケードの構成要素である転写調節因子CREBや神経の可塑性に関与している神経栄養因子のひとつであり、cAMPシグナルカスケードのターゲット蛋白質である脳由来神経栄養因子(BDNF)が変化している可能性が推察された。現在ヒト死後脳にてCREB,BDNFの免疫反応性に関しての基礎的検討は進行中である。さらにACを直接活性化するフォルスコリンが強制水泳実験から強力な抗うつ効果を示したことから、cAMP量を増強する薬剤に新たな抗うつ薬として可能性が考えられた。
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