がん患者の有効なコーピングを明らかにする目的で、国立がんセンター通院中のがん患者を対象として、コーピングおよび感情状態の質問紙を用いて両者の関連を検討した。また、あわせて比較文化的な検討を行った。 647名の適格症例のうち524名から同意が得られたが、69名は質問紙の完全回答が得られなかったため、残る455名を解析対象とした。対象455名の背景は、平均年齢(±SD)59(±12)歳、団53%、10年以上の教育経験を有するもの71%、雇用状況はフルタイムが29%と最も多く、85%が既婚・再婚者であった。医学的背景は、頭頚部がんが最も多く22%、次いで肺がん19%、乳がん19%と続いており、Performance statusは0(身体的機能障害なし)の患者が76%で、初診日からの平均期間(±SD)は730(±558)日であった。 コーピングと感情状態との関連を検討したところ、Fighting spirit(前向き)のみが抑うつおよび不安と有意な逆相関を示した一方で、抑うつ、不安と最も高い正相関を示したのはHelplessness/Hopelessness(悲観)であった。また、確認的因子分析により、今回得られたデータを先行研究で示されている英国と米国のコーピングの因子モデルにあてはめると、米国より英国のモデルにより適合することが示された。 これらの結果より、Fighting spiritが高く、Helplessness/Hopelessnessが低いコーピングが、苦痛の少ない感情状態と関連していることが示唆された。本知見は、欧米を中心とした海外での報告と一致しており、わが国のがん患者においても、欧米諸国と同様のコーピングが有効であることが示唆された。一方で、わが国のがん患者のコーピングは米国よりむしろ英国の患者に類似している可能性が示唆されたが、これは比較文化的に興味深く、今後より一層の検討が望まれると考えられた。
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