研究概要 |
STKは腹腔マクロファージや破骨細胞などの一部のマクロファージ系細胞に発現され機能する受容体型チロシンキナーゼであり、macrophage-stimulating protein (MSP)の受容体である。申請者らは、トロント大学A.Bernstein博士との共同研究によりSTK欠損マウスを作成し、解析を行なった。その結果、欠損マウスではインターフェロンg刺激による一酸化窒素の過剰反応、遅延型過敏反応の亢進、およびLPS投与時の内毒素ショックによる致死率の亢進を認めた。これらの所見はSTKが生態防御反応の過程において、過剰の免疫、炎症反応にともなう組織障害を避けるために、免疫、炎症反応を抑制する機能を有することを示唆しており、その抑制の機構につき検討中である。また申請者らは、STKを発現するIL-3依存性proB細胞株Ba/F3細胞はMSPにより増殖が刺激されるのに対して、STKを低レベルながら発現しているMEL細胞にSTKを強発現させた場合、MSPによりアポトーシスによる細胞死が誘導されることを見いだした。STKの細胞内ドメインC末端の2つのチロシン残基(1330、1337)に変異を導入すると、増殖刺激もアポトーシス誘導もともに消失した。STKにはSH2ドメインを有する蛋白(PLCγ,P13K,Shc,Grb2)が会合するが、MEL/STK細胞をMSPで刺激した時にのみ、61kDaと65kDaの蛋白(p61、p65)がチロシン燐酸化されSTKと会合した。p61とp65はC末端の2つのチロシン残基に変異を導入すると会合しなくなった。また、MEL/STK細胞株をMSPで刺激した時にのみ、最近アポトーシスの誘導に関与が示唆されているJNK1(c-Jun N-terminal Kinase1)が持続的に活性化された。以上よりSTKを介したアポトーシスのシグナル伝達にはp61、p65およびJNK1が関与するものと考えられた。受容体型チロシンキナーゼを介したアポトーシスの機序はあまり知られていないが、この系はin vivoでも使われている可能性があり、細胞死の調節機構として重要な系であると考えられる。
|