慢性腎疾患の進展過程において重要な役割を担うとされる糸球体肥大や糸球体高血圧では、腎糸球体血管係蹄に対する強い機械的な伸展刺激が生ずる可能性が示唆されており、伸展刺激による糸球体障害形成機序が注目されている。申請者らは前年度までに、20%の持続的な伸展刺激を培養糸球体内皮細胞(GEN)に加えるとAngiotensin-converting enzyme(ACE)の発現増強が認められる一方、メサンギウム細胞に同様な刺激を加えてもACEの発現増強は認められないことを明らかとし、糸球体血管係蹄の伸展はGENにおけるACEの発現増強を介して、局所renin-angiotensin系の活性化に寄与している可能性が示唆された。 本年度は、血行動態や血管再構築に及ぼすangiotensin IIの作用に対してcounter balanceとして働くとされる一酸化窒素の合成分泌が内皮細胞に対する同様な伸展刺激によりいかに調節されるかを検討した。内皮細胞に対して25%・2分間の伸展刺激を加えると、一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性化剤であるbradykinin投与と同程度に細胞内cGMPが増加するが、この増加は伸展率依存性であり、またNOSの阻害剤であるL-NMMAの投与により完全にblockされることから、内皮細胞に対する伸展刺激は瞬時に内皮型NOSの活性化を介してNOの合成・放出を促進する可能性が示唆された。更に伸展刺激によるNOSの発現調節を、western blotにより解析すると、24時間の伸展刺激により伸展率依存性にNOS蛋白の発現が減少することが明らかとなった。Northern blotによりmRNAレベルを調べると、NOS mRNAの発現は伸展刺激により影響を受けないことから、post transcriptionalでの発現調節の関与が示唆され、新しいNOSの調節機序として興味深い。高血圧モデルでは、血管内皮においてNOSの発現が低下しているといった事実や、NOの様々な生物作用(血管平滑筋細胞に対する増殖抑制作用、血小板凝集抑制、白血球の浸潤抑制等)を考えあわせると、これらの結果は高血圧における血管内皮に対する伸展刺激が、内皮細胞におけるNOS蛋白の発現低下を介して血管再構築に寄与する可能性を示唆している。現在NOSの発現低下機構の検討ともにACEの発現増強機構との関連性を検討している。
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