研究概要 |
1.ヒト乳癌臨床例において,fibronectin(FN)の発現陽性例は陰性例に比べ予後良好であった.estrogen receptor(ER)の発現陽性例の予後は陰性例に比べ良好な傾向を示し,予後因子としての重要性はホルモン療法施行例でより明らかであった.platelet derived endothelial cell growth factor(PDECGF)は癌細胞および間質細胞に発現し,間質細胞における発現陽性例は陰性例に比べ予後不良であった(癌細胞における発現と予後との関連性は認められず).腫瘍内血管密度(intratumoral microvessel density,略してIMD)の高値例は低値例に比べ予後不良であった.各因子相互および既知の予後因子との関連性をみると,正の相関を有するものが,ERと腫瘍分化度,間質PDECGFとIMD,負の相関を有するものが,FNと間質PDECGF,FNとIMD,ERと間質PDECGF,IMDと臨床病期(特にリンパ節転移)であった. 2.培養細胞およびラットDMBA誘発乳癌(DMBA腫瘍)を用いた実験において,ER陽性ヒト乳癌培養細胞MCF-7(MCF-7)の細胞表面のFN発現はestrogen(E_2)によって減少し,E_2 antagonist(tamoxifen,略してTAM)によって増加した(in vitro).MCF-7のERはE_2によって減少し,TAMによって軽度増加した(in vivo).ラットDMBA誘発乳癌(DMBA乳癌)ではvascular endothelial growth factor(VEGF)はE_2によって増加し,TAMによって減少した.MCF-7腫瘍はplatelet endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1)を指標とした腫瘍内血管新生を認めなかったが,転移を生ずるER陰性ヒト乳癌培養細胞MDA-MB-231腫瘍では腫瘍細胞表面にその発現を認めた. 以上により,血管新生は臨床的に乳癌の浸潤転移の重要な因子であり,その血管新生に増殖因子VEGF,PDECGFは促進的に,また,接着因子のうち,FNは抑制的に,PECAM-1は促進的に働く.さらに,抗E_2剤であるTAMは,FNの産生を促し,血管新生に抑制的に働くとの結論を得た.
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