「口蓋裂」の治療目的は鼻咽腔閉鎖機能の改善にあり、1〜2歳ごろ、そのための手術療法を施行する。しかし、その中の5〜6%は手術を施行しても同機能の改善が充分でなく、言語機能(構音)に問題を残す症例が生じている。そして、その原因部位は症例によりまちまちである。 また、同じく先天性に鼻咽腔閉鎖不全をきたす疾患である「鼻咽腔閉鎖不全症」も、閉鎖不全をきたす原因部位は症例により異なると考えられている。 しかしながら、閉鎖不全の原因部位を正確に判定する方法は未だ確立きれておらず、画一的な手術療法が行われているのが現状である。 また、健常人においても鼻咽腔閉鎖動態は個々により様々で、閉鎖に関わる筋群の関与の相違が推測されている。 そこで、発声時の鼻咽腔閉鎖機構をより正確に把握するために、MRIの超高速撮像法を用いて、閉鎖に関わる筋群の観察を試みた。 その結果、MRIの撮像方法の設定と観察する断面の設定を工夫することにより、口蓋帆挙筋をはじめとする鼻咽腔閉鎖筋の一部の発声時の変化をとらぇることが可能となった。この検査方法が確立されることにより、個々の症例の閉鎖不全の原因となる部位の特定と、症例に応じた手術術式の選択が可能になると考えられる。 さらに、この検査方法を用いて、健常人をふくめた鼻咽腔閉鎖動態を観察したところ、従来は鼻咽腔閉鎖筋とは考えられていなかった前頚筋群のひとつが、この閉鎖機構に関わっていることが解明された。この新しい知見は、軽度の鼻咽腔閉鎖不全症例の治療のひとつである言語療法において、臨床応用できる可能性があると考えられる。
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