研究概要 |
第3番染色体短腕(3p)は,腎癌や肺癌のみならず乳癌においても高頻度な染色体欠失の報告があり,乳癌の発生・進展に関わる癌抑制遺伝子の存在が示唆されている. 今回,3pの詳細な染色体欠失地図を作製し,乳癌に関わる癌抑制遺伝子の存在推定部位を限局化するとともに,3pの欠失と種々の臨床病理学的諸因子との関連を検討した. 検体として乳癌手術症例の新鮮標本から抽出した癌部・非癌部の各DNAを用い,計196症例を対象とした。各乳癌症例に対し,3pの全領域を網羅すべく選定した計22ヶのマイクロサテライト多型DNAマーカーを用いて,各々ヘテロ接合性の消失(LOH)の有無を判定した. 全196症例中101例(52%)に3pのLOHを認めた.LOHを認めた症例をもとに,高精度な染色体欠失地図を作成した結果,3p24.3-25.1領域と3p14.3-21.1領域の2ヶ所に共通欠失領域を同定した。また,この2ヶ所の共通欠失領域はそれぞれ,5cM及び2cMの範囲に限局化された. 次に,3pの欠失と乳癌における種々の臨床病理学的諸因子との関連を検討したところ,3pの欠失とプロゲステロンレセプターの消失との間に強い相関を認めた。これらの結果から,第3番染色体短腕には,少なくとも2ヶ所において乳癌に関わる未知の癌抑制遺伝子の存在が示唆され、その不活化が乳癌におけるホルモン依存性の喪失の引き金となっている可能性を示唆していると考えられた.
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