肝腫瘍に対する肝動脈反復遮断療法は、肝の阻血、再灌流によって局所誘導される活性酸素の細胞毒性理論に基づく癌治療法である。 本年度は、4例の切除不能肝癌患者に本法を臨床応用した。肝細胞癌の1例で、側副血行路の完全郭清の後本法を行ったところ、腫瘍の著明な壊死、縮小を認めた。局所での活性酸素発生を効率的に誘導し、抗腫瘍効果を増強するためには、側副血行路の発達を可能な限り抑制する必要があると考えた。 実験的研究では、血管拡張物質として重要な生理活性機能を持つと同時に抗腫瘍活性物質という二面性を有すNitric Oxide(以下NO)が、肝の阻血・再灌流障害に及ぼす影響を検討した。 雑種成犬18頭を、強力な血管収縮作用を有し臓器虚血の原因となるEndothelin(以下ET)の拮抗剤(TAK-044)投与下に、NO放出剤(FK-409)の門脈内投与法の違いで以下の3群に分け、90分間の肝阻血を行った。 NO大量群;TAK5mg/kg阻血前投与+FK3.2mg/kg再灌流時投与(n=6) NO少量群;TAK5mg/kg阻血前投与+FK0.4mg/kg再灌流時投与(n=6) コントロール群;生理食塩水投与(n=6) 再灌流後の血中肝逸脱酵素の上昇は、NO大量群が最も高く、以下コントロール群、NO少量群の順にそれぞれ有為に抑制された。肝組織血流はNO大量群とNO少量群いずれもコントロール群より有為に良好であった。すなわち至適量のNOは、ET拮抗剤との協調で肝組織血流を維持し、阻血・再灌流障害を軽減するが、再灌流時の大量のNO放出は逆に障害を増強することが明らかとなった。NOは活性酸素と反応し、より強力な細胞毒性を持つPeroxy-nitrite(ONOO)を産生することから、局所誘導された活性酸素の抗腫瘍効果の一機序としてNOの関与が示唆された。
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