1.HE染色による比較 大腿神経は術後3日目頃より変性が確認され10週間目には全ての軸索が変性したのに対し肝神経は術後10週目まで、切離群、再縫合群ともに変性所見を認めなかった。 2.免疫組織化学染色(抗GAP-43抗体)による比較 正常な機能を営む神経は、ほとんど神経再生が起こっていないため、コントロールラットでは肝神経、大腿神経ともに一部の軸索がわずかに染色されるのみである。術後1日目には肝神経(切離群、再縫合群)、大腿神経ともに染色性は全く失われた。大腿神経は1日目以降まったく染色性は消失したままであった。肝神経(再縫合群)は2日目になると軸索の一部がわずかに染色されはじめ3〜4日目頃より大きな神経束はかなり強く染色される。2〜4週間目で最も強く染色され、次第に染色性は減弱し6〜8週目以降染色性は術前の状態に回復する。また特徴的なことは、術後3日目から1週間目までの限られた期間においてのみ、大きな神経束の周囲に細かい神経線維がネットワーク状に多数染色されてくる。このネットワークの状の神経線維は1週間以降には認められない。肝神経(切離群)に関しては、前述した再縫合群と全く同様の結果が得られた。 考察 大腿神経は切断後に変性するのに対し肝神経は神経毒を塗布され完全に細胞体から途絶されたにもかかわらず再生した。ネットワーク状の神経網が短期間に限って出現することは非常に興味深い。つまり1本の神経として機能していたものが、切断されたことを何らかの理由で感知し、胆管、門脈壁周囲に残っていた細かい神経ネットワークから急速に分枝を延ばし、末梢側の太い神経束と交通したものと考えられた。肝臓は生体内で最も生成力旺盛な臓器であり、神経支配も通常の末梢神経の如く独立しておらず、様々な神経が神経ネットワークを形成し、神経が切断されると、すぐにその情報を感知し末梢側へ交通するものと考えられた。
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