研究概要 |
血管新生関連因子として組織内微小血管密度(microvessel density:MVD)とVEGFに着目し,食道扁平上皮癌における臨床的悪性度との関連を調べた.1990〜1994年に教室で食道切除術を施行した術前未治療の胸部食道扁平上皮癌117症例を対象に,抗ヒトvon Willebrand因子抗体,抗VEGF抗体を用いた免疫染色法によりMVDとVEGFの発現を調べた結果,以下のことが判った.MVDの分布は15〜174/mm^2(51.5±29.2:M±SD)で,高血管密度群(≧60/mm^2:27例)と低血管密度群(<60/mm^2:67例)の2群に分けて検討すると,高密度群は進行癌(pT2以上)の割合が高く(p<0.05),予後不良であった(p<0.01).VEGFについては癌細胞の陽性率が80%以上の症例をVEGF陽性と判定すると117例中36例(31%)がVEGF陽性であり,リンパ節転移個数の平均はVEGF陽性群:5.6±1.2(M±SE)個に対し,VEGF陰性群:3.0±0.6個とVEGF陽性群の方が多く(p<0.05),予後不良であった(p<0.05).また,VEGF陽性群と陰性群のMVDの比較では各々平均が53.6±2.9(M±SE)/mm^2,44.4±2.2/mm^2でVEGF陽性群の方が有意に高かった(p<0.05).MVD,VEGFは各々腫瘍発育,転移に関連し,食道扁平上皮癌の悪性度評価因子となりうると考えられた.VEGFアナログの開発による腫瘍血管新生阻害の面からの新たなる癌治療法の可能性が示唆された.
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