研究概要 |
術前未治療の胸部食道癌症例103例を対象とし切除標本のパラフィン包理切片におけるCyclin D1,p53,p21(Waf1),p16(Ink4),pRbの発現とPCNA,Ki67(MIB-1)による細胞増殖を免疫組織学的に研究した。Microwaveによる抗原復活をおこない判定は10%以上の癌細胞が明らかに染色された場合陽性(+)とし、Heterogenityは考慮しなかった。PCNA,Ki67(MIB-1)については腫瘍先進部での癌細胞100個あたりの陽性細胞数で評価した。Cyclin D1は43例(42%)に発現を認め、p21は32例(31%)が陽性、p16は34例(33%)が陽性であった。p21は深達度が浅い症例に多かったが、リンパ節転移とは相関がなかった。p16は深達度・リンパ節転移ともに相関はなかったが、分化度では高分化型癌に多い傾向があった。p16陽性はCyclin D1陰性例に多く陽性例に少なくまたpRb陰性例に多くともに有意差を認めた。しかし、p21はp53およびCyclin D1ともに同時陽性例があり有意な相関はなかった。PCNA,Ki67(MIB-1)による増殖活性はCyclin D1陽性例において高い傾向があった。予後はCyclin D1が有意な予後因子であり、p53は陽性例が陰性例に比し予後不良の傾向にあったが有意差はなかった。p21,p16ともに陽性例が陰性例に比し予後良好な傾向があったが、有意差には至らなかった。また、pRbも陽性例と陰性例の間に生存率の差はなかった。食道癌臨床例においてCyclin D1発現は細胞増殖を活性化し予後不良因子であった。p16はCyclin D1-cdk4複合体を抑制しRbのリン酸化による細胞回転を抑制するという基礎的研究と臨床での本研究とは一致する結果であった。p21はp53および細胞増殖との関係は臨床例では不明でこれはHeterogenityが多いためと考えられた。細胞周期関連蛋白とくに増殖抑制蛋白の研究は将来的に遺伝子治療に結び付くと考えられ今後さらなる臨床的研究も行われるべきである。
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