【目的】最近、私達は45%肝部分切除した肝硬変ラットに、術直後より肝細胞増殖因子(HGF)を持続投与することにより、残存肝の再生促進と同時に血中脂質の著明な増加を認めた。これまでにHGFによるDNA合成促進や蛋白質代謝に関する報告は多いが、脂質代謝に対する報告は極めて少ない。今回私達はラット初代培養肝細胞を用いて、HGFが直接肝細胞の脂質代謝に影響を与えているか否かを検討した。 【実験方法】Wistar系雄性ラットを用いSegienの方法に従って肝細胞を単離、培養した。HGFを12hごとに加え、48hまで培養を行った。この間、細胞の脂質および培養液中の脂質遊離(トリアシルグリセロール、総コレステロール、リン脂質)を経時的に測定した。同様に得られた36hのconditioned mediumを超遠心しVLDL画分を得た。また細胞のミクロソーム画分を調整しHMGCoAreductase活性を測定した。 【結果】Medium中の各脂質の分泌は培養12hまではいずれもHGF(20ng/ml)添加により抑制を示し、それ以降逆に分泌促進へと転じ、36h後にcontrol値の約25-40%の増加を認めた。またVLDL画分への脂質分泌を検討したところHGFによる増加(50-150%)がより顕著に認められた。細胞内脂質はcontrolでは各脂質とも経時的に減少していくものの、HGFによる増加(30-45%)が認められた。更にHGFはコレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA reductase活性を有意に促進した。以上よりmedium中への脂質分泌はHGFによる細胞内での脂質合成および分泌促進によることが明らかとなった。これらVLDL画分への脂質分泌増加はチロシンキナーゼ阻害剤であるgenistein(100mM)により完全に抑制された。このことはHGFが受容体c-metに直接作用し脂質合成、分泌を促進していると考えられた。 【結論】肝部分切除術直後には肝の脂質合成、分泌が低下するが、一方で末梢組織からの血中への脂肪酸などの動員が見取られる。私達はラット初代培養肝細胞を用いて、HGFがその受容体c-metを介して、denovoの脂質合成、分泌を促進することを明らかにした。このHGFによる血中脂質の増加の意義に関しては現在のところ不明であるが、肝再生時の膜構成脂質の供給に加えて、エンドトキシンショックなどに対する宿主防衛のために、HGFが直接肝での脂質合成を増加しているのではないかと推察される。
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