本研究では主として本邦においても高頻度に認められるヒト扁平上皮癌より特異的CTLによって認識される抗原ペプチドの同定を試みた。即ち食道癌細胞株(KE4)よりcDNAライブラリーを作製し、HLA-A2601遺伝子と共にヒト腺維芽細胞株(VA13)にtrasfectしたのちKE4に対するHLA-A2601拘束性CTL株を添加し、それによるIFNgの産生を指標にして目的抗原をコードする遺伝子をスクリーニングした。その結果、777bpのORFを含む991bplの遺伝子を、クローニングした。その991bp遺伝子をプローブとして、さらに解析した結果2507bp長の遺伝子が同定された(SART-1遺伝子と仮称)。このSART-1遺伝子は、mRNAレベルで全ての正常及び癌認識に発現しており、睾丸おいては強発現している。しか、同蛋白(777bpのORFのコードする259アミノ酸)は抗SART-1抗体とwestern blot法での解析より正常組織では睾丸及び胎児肝のみ、また癌組織では頭頸部癌・食道癌の殆ど、非小細胞性癌の5割に発現されていることが示唆された。またSART-1蛋白(259アミノ酸)のうちKE4-CTLに認識される抗原部位は、実験よりORFの3′-側から186bpに抗原ペプチドがコードされていることが示唆された。そこで、10merのペプチドを22種類合成し、それぞれをHLA-A2601およびHLA-A0201遺伝子をtransfectしたVA13にロ-ディングし、これを標的としてKE4-CTLの反応性を調べたところ、3種類のペプタイドが抗原となり得る事が示唆された。このことから、宿主のキラーT細胞によって特異的に認識される癌退縮抗原がヒト扁平上皮癌の細胞に存在するが示唆され癌ワクチン開発の可能性が示された。
|