研究概要 |
【目的】現在心臓移植を取り巻く問題として慢性的な臓器不足,各種免疫抑制剤の投与により発生する重症感染症等が存在する.免疫抑制剤を一切使用せずドナー特異的な免疫寛容状態を異種間移植で誘導する事が移植医療の理想である.ラット,ハムスター間異種心移植モデルを用い,胎児期にドナー特異的な免疫寛容を誘導する事を目的とした. 【方法】ドナーにゴールデンハムスター,レシピエントにのLewisラットを用いた.全身麻酔下Ono-Lindsey法に従い腹腔内異所性心移植を施行した(n=8).妊娠9,16日目のLewisラットを同様に麻酔し開腹.ドナーより採取した骨髄細胞を胎盤より胎児側の子宮内へそれぞれ0.05ml(骨髄細胞数15×10^6)ずつ注入し閉腹.妊娠を継続させ出産.胎児出生後これをレシピエントとし,同様に腹腔内異所性心移植を施行(妊娠9日群:n=8,妊娠16日群:n=5).移植心生着期間の観察は移植心拍動の触診にて行なった. 【結果】移植心生着期間はコントロール群2.5【+-】0.5,妊娠9日群7.4【+-】4.1,妊娠16日群2.8【+-】0.8日であった.コントロール群と妊娠9日群間では統計学的有意差を認めた(p<0.008)が,妊娠16日群では認められなかった.また,妊娠9日群のレシピエントの骨髄幹細胞の染色体を検索した結果,Lewisラット以外にゴールデンハムスターの染色体が認められキメリズムが証明された. 【結語】1.ラット,ハムスター間異種心移植モデルを用い,ドナー骨髄細胞のレシピエント妊娠前期投与群では移植心生着期間の有意な延長が認められたが,妊娠後期投与群では延長は認められなかった.2.ドナー骨髄細胞をレシピエントの子宮内に直接投与する事によりキメリズムが証明された.3.ドナー特異的免疫寛容を誘導する事により異種間心臓移植の可能性が示唆された.
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