研究概要 |
脊髄損傷には未だ決定的な治療方法が開発されていないため、運動障害を主とする重篤な機能障害は予後を悪化させている。われわれは、抗炎症作用を有する薬剤(pregnenolone)投与がラットの脊髄損傷後の二次性損傷による進行性壊死・空洞形成を抑制し運動機能回復に非常に有効であることを明らかにしてきた。本研究は、この事実を元に脊髄損傷後の完全対麻痺を改善しうる治療プロトコールを開発することを目的とした。 薬剤投与の量とタイミング、低体温の効果、他剤との併用の観点から組織学的、電気生理学的に検討し、脊髄損傷に対する最も有効な治療法を検索した。さらに、この治療法の有効性が、進行性壊死・空洞形成抑制以外のいかなる因子に由来するかを分子生物学的に検討するため、空洞形成のおきないC57B1/6Jマウスも用いた。 実験的脊髄損傷において、(1)pregnenolone投与は直後から21日間の連続投与においてのみ2次性損傷の抑制機構が作用すること,(2)マウスの脊髄損傷後にはラットと異なり二次性の損傷に引き続き起こる進行性壊死・空洞形成が少ないが存在し、高体温、microgliaの活性因子の投与で憎悪すること,(3)低体温療法は単独でも2次性損傷に抑制的に作用する。この効果はpregnenolone投与による組織学的変化に及ぼす影響と相同であった。(1),(2),(3)ともに運動麻痺の改善は組織学的に2次性損傷の軽減とよく相関した2次性損傷の軽減とよく相関した。一方、電気生理学的所見(MEP)の改善は運動麻痺の改善に先行する場合もあるが、概して運動麻痺の改善後に遅れて改善所見を呈した。
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