研究概要 |
当教室では、サイトカインにより活性化されたアストロサイトが、脳損傷時の神経機能維持、再生に重要な役割を果していると想定し、fibroblast growth factor(FGF)、trnsforming growth factor-β1(TGF-β1)などの、脳に障害が生じた際に供給される各種サイトカインが、アストロサイトによるNGFをはじめとする様々なneurotrophic factorの産生もしくは分泌を増強することを明らかにしてきた。さらに、これらの液性因子に加え、アストロサイト、神経細胞に発現している細胞接着因子であるNCAM(neural cell adhesion molecule)が、それぞれ、TGF-β1とFGFにより発現調節を受けることが明らかとなった。本年度は、同じく神経系に発現している細胞接着因子であるL1のサイトカインによる発現調節を解明するとともに、NCAM、L1の神経回路形成に果たす役割を解明することを目的とした。 ラット新生仔海馬由来アストロサイト、ラット胎生17日大脳皮質由来神経細胞の初代培養系を、basic FGF,TGF-β1,interleukin-β1(IL-1β),tumor necrosis factor-α(TNF-α)にて刺激した後、細胞膜成分を分離し、抗L1抗体を用いたWestern blot analysisを施行したところ、アストロサイトにはmRNAレベルでは発現の報告はあるものの、今回の蛋白レベルの検討では、サイトカインで刺激する前後をつうじてその発現は認められなかった。また、神経細胞に発現しているL1は、サイトカイン、アストロサイトの培養上清、サイトカインにて刺激したアストトサイトの培養上清のいずれの刺激によっても、発現の変化は認められなかった。 上記培養神経細胞は、培養開始4日目までに、突起を伸展し、シナプスを形成することにより、神経細胞のネットワークを形成する。この時期の細胞接着因子の発現をWestern blot analysisにより解析したところ、NCAMには著しい発現の上昇が認められたが、L1には発現の変化は認められなかった。結論として、サイトカインの刺激により発現調節を受ける、アストロサイト、神経細胞の細胞接着因子は、傷害された神経回路網の修復に関与していると考えられるが、これは主として、L1よりもNCAMを介して行われている可能性が示唆された。
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