この研究において記録したすべての横隔神経遠心性発射電位をシグナルコプロセッサ(Sanei/7T18)にてスペクトル解析した結果、ラットにおいてはHFOを観察することはできなかった。そこで1つのバーストの積分面積、持続時間および1分間の発射頻度を計測統計処理した。また呼吸生理学的には、積分面積は1回換気量に比例し、持続時間は吸気時間に、発射頻度は自発呼吸回数にそれぞれ相当するものとして考察する。 セボフルラン麻酔下でもイソフルラン麻酔下でもCO_2応答があり、CO_2負荷により持続時間の有意な変化なくその発射頻度が増え、バーストの積分面積も有意に拡大した。また、発射活動はセボフルランにもイソフルランにも濃度依存性に抑制され、吸気時間の有意な短縮と発射頻度の有意な減少をともなった。そして、発射活動の抑制はイソフルランに有意に強かった。 他社の横隔神経遠心性発射活動の薬剤における抑制研究によれば、ベンゾディアゼピンでは吸気時間の短縮による1回換気量減少と呼吸回数の増加、オピオイドでは吸気時間・1回換気量ともに変化なく呼吸回数の減少のみが起こる。我々の研究においては、吸入麻酔薬は横隔神経遠心性発射活動において呼吸回数・吸気時間・1回換気量を濃度依存性に抑制した。つまり、吸入麻酔薬における呼吸抑制は、ベンゾディアゼピンおよびオピオイドの両方の呼吸抑制パターンを持つことがわかった。このことは、吸入麻酔薬がディアゼパンレセプターおよびオピオイドレセプターともに作用し、その2つの呼吸抑制パターンを呼吸中枢が受け取り連関し合って、今回の横隔神経遠心性発射活動として表現されたものと思われる。今後はいろいろな麻酔薬において研究を進め、発射活動も中枢性にマッピングしていければ、麻酔薬の呼吸抑制もメカニズムを解明できるものと考える。
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