麻酔薬投与時にみられるアレルギー反応は、肥満細胞からのヒスタミン分泌によって惹起されると考えられている。ヒスタミン分泌機構そのものについては、IgEなどの刺激による情報伝達機構が知られており、最終的にヒスタミンを含む顆粒膜と細胞膜の膜融合が起こると予想されている。本研究では、肥満細胞からのヒスタミン遊離を膜融合としてとらえ、膜融合に対する麻酔薬などの効果について検討した。 1.in vitroでの膜融合測定系の確立 顆粒をラット腹腔より採取し、遠心分画法により顆粒膜を調製し、細胞膜の反転膜小胞を培養マウス癌化肥満細胞(P-815)の低張溶液処理等により調製した。顆粒膜を蛍光プローブ(octadecyl rhodamine B chloride(R18))で過剰に標識し、蛍光解消させた。これらと標識していない細胞膜の反転膜小胞を混合し、Ca^<2+>添加により蛍光を回復させた。蛍光分光光度計を用いて蛍光強度を時間依存性に測定し、膜融合の速度と程度を算出した。Ca^<2+>濃度依存性に両膜の融合が見られ、in vitroでの膜融合測定系を確立した。 2.膜融合に対する麻酔薬などの効果 この膜融合測定系にアレルギー反応に関与することが知られている(麻酔薬のチオペンタール、筋弛緩薬のd-ツボクラーリン、心臓麻酔に不可欠の抗凝固薬のヘパリン拮抗薬としてプロタミン)を添加し、膜融合の速度と程度を測定した。チオペンタールとd-ツボクラーリンは膜融合の速度に影響を与えず、プロタミンは膜融合を抑制した。この測定系では、ヒスタミン遊離の最終段階である顆粒膜と細胞膜の膜融合過程のみをとらえおり、上記薬剤はいずれもこの過程を促進しなかった。今後は、これらの薬剤により誘起されるアレルギー反応がヒスタミン分泌に至る情報伝達のどの過程に寄与するかについて検討する予定である。
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